医院ブログと歯の豆知識

CLINIC BLOG & TOOTH KNOWLEFGE

医院ブログ2022.05.07

歯科医療の価値

GWいかがお過ごしでしたでしょうか?

当院はカレンダー通りのお休みを取っていましたので、もしかしたら連休中に歯がとれて困っている、腫れた、痛みが出た、ということでお困りになっている方もいるかもしれません。

私が歯科医師になった頃は、この「困っている人」が患者さんのほとんどでした。

 

「虫歯になった」

→削って穴を埋める

→痛みを伴う場合は抜髄(歯の神経を取る)

 

「歯周病で歯肉が腫れた」

→歯周ポケット内を洗浄して抗菌薬と痛み止めの投薬をする

→助けられない場合は抜歯

 

「歯が取れた」

→セメントの劣化や力で取れたもので、歯も修復物(補綴物も含む)も損傷がない場合は綺麗にして合着する

→虫歯で取れたり、歯が割れている場合は形を整えて歯型を取り新しく作り直す

 

「入れ歯が合わない」

→顎堤(歯のない歯肉)と入れ歯の当たるところを調べて削る。噛み合わせを整える。

→適合があまりに悪い場合や設計に問題がある場合は作り直す

 

上記で挙げた様な仕事が日常の仕事の主でした。

そして治療を最後まで終えずに来院しなくなる患者さんも多く、

「痛くなったり、歯が欠けたらまた来る」

ということが繰り返されていました。

当然、応急処置は困ったのが「突然」なので、急患です。

予期せずに来院された患者さんに対して本当にやるべき診療よりも、とりあえず予約の患者さんもいるけれど時間に追われながら救急対応するという毎日でした。

あれから20数年

今の僕の臨床の仕事は「患者さんへのカウンセリング」と治療を通しての「ドクター、衛生士、歯科助手の教育」のボリュームがかなり大きくなりました。

勿論、毎日治療は行なっています。

虫歯治療も根管治療も補綴治療も外科処置もインプラント治療も矯正治療も行います。

その中でも歯科医師になって勤務医として患者さんを拝見した時の仕事の内容は間違いなく違ってきており、業務の中での救急対応の割合はかなり少なくなっています。

医療の基本は「困っている人を助ける」ことだと思います。

ということは急患対応にこそ医療の本質があると言えます。

しかし、実際は医科の世界でも救命救急医よりも命には関わらず、緊急性も高くない美容形成の医師の方が収入は高いです。

歯科でもいわゆる痛みを取る保険診療に従事する歯科医師よりも、歯列矯正やインプラント、審美治療などを生業とする歯科医師の方が圧倒的に収入は高いです。

お金=市場が決めた価値

だと思います。

つまり

「救急医療」

よりも

「美容」「自費診療」の方が価値が高いと世の中が評価しているということです。

僕は心臓外科医や救命救急の医師が美容外科の医師よりも収入が低いということにずっとモヤモヤを感じていました。

命はお金で買えないのに、何故、世の中では命には関わらない美容の方にお金が流れるのだろう?と。

歯科の現場においても歯を残す為の保険の保存治療、根管治療、は保険点数でも評価が低く、歯が無くなったあとのインプラント治療や、絶対に必要なわけではない審美治療や歯列矯正に従事した方が利益率が高いことにもモヤモヤしていました。

これじゃあ真面目に本当に必要な医療をやろうと志を持っている先生方が馬鹿をみるじゃないか、若い先生はまともな医療をやろうという人が減っていくじゃないか、と怒りも感じていました。

世の中は必要もないことの方が価値が高いことは沢山あります。

みんなが乗れるワンボックスよりも、日本の公道では性能を生かしきれない2人しか乗れないスポーツカーの方が値段が高い

学校生活全ての指導をしてくれる先生よりも、1教科を教える予備校の人気講師の方が圧倒的に収入は高い

希少価値だとか、特殊技能だとか、それを求める人の数だとか、価値が高いものには何かしら理由があります。

松下幸之助さんの言葉で「市場は正しい」という言葉があります。

どんなに思いを込めて作った製品でも売れなければ正しくないし、どこが良いのか分からない製品でも売れたものには市場に評価をされた理由がある。

という様に理解をしています。若い頃に感じていた怒りは今は理解に変わり、市場の評価は概ね正しいと思っています。

 

私達は営業職ではありません。

自費診療だろうが、保険診療だろうが、関係なくその患者さんにとって良いと思われる治療をします。しかし、患者さんも実は歯科医療の金額のことはとても気になっていることで、場合によっては医療の質よりも金額の方が気になっている場合もちらほら見られます。

何にお金を使うかは患者さんの自由で、歯はなくてもブランド物にお金を使う人も、歯がなくてもレジャーを優先させる人も珍しくありません。

それで良いと思います。

歯科医療に価値がある、なんて全然思っていません。患者さんが決めれば良いことです。

歯がなくても死なないし。

私達は自分に恥じることなく正しいと思うことを粛々とやるだけです。

ただひとつ

歯科医療で言えるのは、歯列矯正に関しては遺伝的要因が大きいし、事故で歯を失うのは不可抗力なので仕方ないにしても、普通の方の重度の虫歯や歯周病は原因も予防方法も分かっています。

でも分かっている予防をやらないから歯を失い、失えば失うほど、結果として医療は複雑になり医療費は高額になります。

虫歯、歯周病の重症化は言うなれば自業自得。防ぐことは出来たのです。

人は失って初めて失ったものの価値に気がつきます。

でも失うまでは

見た目を気にせずに笑えること

食べたい物を気兼ねなく食べられること

発音する事に歯の形も存在も気にならない事

その価値に気が付かず、華やかな装飾品や趣味や気楽さに価値を感じています。

それが健康よりも美容に高い価値がついている理由です。

それが一般的な人です。

みんなが自分を律することが出来ている訳ではないです。健康に行動や投資を出来ない事自体は悪くはありません。私達医療に携わる人間だって、健康のために良いと分かっているのにやっていない事、悪いと分かっているのにやってしまっている事なんて沢山あります。

私達は歯科医療従事者である職務上、歯を守る為に良いことや現在の悩みを解決する事、将来歯のことで悩まなくっても良い様に予防効果の高い医療のことをお伝えし続けますが、最終的には患者さんが選択をすることです。

「歯科医療の価値」

それは値段ではありません。

患者さん自身が決めるものなのです。

市場はそれに「適正価格」をつけています。

歯列矯正

ジルコニアやセラミックの修復物や補綴物

インプラント

収入に対して何十万円もの金額が安いだなんて決して思いません。

しかし、専門知識と経験を身につけた術者と歯科技工士が

フルオーダーメイドであなたに為だけの歯を作る

スーツだって

車だって

家だって

フルオーダーメイドは高価です

私達は患者さんに金額で悩んでほしくない。物を売りたいわけではない。

あなたが「どんな人生を送りたいか」を選んで欲しいのです。